史上最大の幸福

 2009年8月30日、関東地方は大雨だった。

 「オレ、自分の誕生日にあんま雨降られたことないんだけど!」
 タオルでがしがし頭を拭きながら、8月生まれの少年は叫んだ。
 確かに、記憶にある限り、キミの誕生日に雨だったことはない。が。

 たぶん、天気の神様はキミの誕生日のことは知らないとおもう。

 嵐はそのグループ名を裏切って、基本的に天気には恵まれる方だ。
 (電車を止めるくらいの雷雨だった時もあるけれど)。
 その嵐にしてみれば、野外のコンサートのその当日に降り続く雨は、たぶん想定外なのだ。

 しかし。
 予報では台風が来るはずだった。朝から降っていた雨は、入場時間の間だけは止んでいた。
 それだけでも、天気の神様としたら最高の出来だ。

 途中で中止になってもしかたない雨だった。
 マイクはいくつもだめになった。
 それでも、心配するほどには機材は案外大丈夫だったように見えた。
 技術は進歩している。その神様も、エライ。

 雨なのに。「これ早くやった方がいいよね!」って、8月生まれの少年があせるほどの雨なのに。
 それでも、お誕生日だからケーキがちゃんと出てきて、雨にもマケズろうそくをつけて。
 プレゼントはキラキラなスパンコール全面のアディタスジャージ。
 雨だけど。ちゃんとおめでとうは言えたわけで。
 ハッピーバースデーを、その空間で合唱できたわけで。

 こんな雨のなか、最後まで、席を離れないでいてくれて感謝しています。

 そんな言葉を聞いた。

 アンコール、一瞬雨が止んだ。
 そのあとのアンコール、また、雨が降ってきた。

 「ほらー、降ってきちゃったじゃん!」

 元来、8月生まれの少年は、口が悪くてイライラしがちで話すと長い。
 このごろはずいぶん穏やかになったけど、キーキーしてる感じはなつかしい。

 数年前、「もっと売れてた」と言っていた。
 その年齢の自分は、昔思い描いていた頃は、もっと売れてた、と。
 かっこ笑い、がついていたけれど、それでも。

 もっと売れてた、とは、もう言わないだろう。
 そのかわり、こんなはずではなかったと思うことも、時々はあるかもしれない。
 しかし、こんなはずではなかったことを、きっと変えていける力を持つ。
 ひとりではできなくても、少なくともあと4人、確かな味方がいるのなら。

 そのことが、
 神様が8月生まれの少年にくれた、史上最大の、幸福。