手のひらの上の花吹雪

「でも、途中で気付くんだよ。これじゃ、膝が持たない、って」

ごくごく普通に流れていた大喜利の途中に、ほろっと北山がそう、口にした。

昔はバク転やってたんだよ、ローラー履いてバク転やってたし。そんな話の終わり。

「気付くんだよ。これじゃ、持たない、って」

そうだよな。

そんなこと、本人が一番わかってるんだよな、って。

いつか、の、アクロ着地で2回右足を着いたのは29日。

江田ちゃんりょうちゃんのWロン宙、その、宙に入る直前、ダダンッ、と、2回、右足を着いた。

手前でくるりと江田ちゃんが回っているその間1秒くらい、着地の姿勢で固まったまま、ぴくりとも動かなった。

ちょっと、自分でもびっくりしたような顔をして。

正直、引っ込むかと思った。そのまま、近くのステージ下手袖に、ハケてしまうかと思った。

でも、次の瞬間りょうちゃんはガッシガシにいつものように踊り出して。

そのあとも、わりと、普通に見えて。

でも、鶴の最後の最後に飛び上がった後、着地する時、後ろに尻餅をつきかけるくらい体勢を大きく崩した。

だめだ。やっぱりだめだ、なんかあった、あの時に。

こういうこと、結構ある、ありすぎるくらいある、のに、それに何回ぶつかっても慣れない。

休憩時間に何かしらの処置をしてくるとして、どうだろう。

でも、どうだろう、っていうこっちの不安を軽々と越えて、ShadowDanceのラスト、ロン宙は美しく成功した。

よっしゃぁぁぁぁ!

一緒に声出しそうになるくらい。でも。

翌日、幕開けにいなかった、と知って。

あー…一晩たったらダメだったパターンか…って。

そのまた翌日に、若干こっちがしにそうになりながら見に行った。

痛ってぇんだよって、そういう顔してる時はむしろ大丈夫。

伏し目がちで、何か考え込むような顔の時は、結構大変。

今日は、ちゃんと、笑ってる。けど、わりと、伏し目がちな顔。

でも、多分、気付かれない程度には全然普通に舞台の上にいるその姿。

自分のこと、迷惑な客だよな、ごめんな…って、ちょっと思ったりも、する。

気付かれない程度なんだから、気にしないで、楽しかったーって、かわいかったーかっこよかったー感動したーって、そう言って、笑って帰ればいいのにね。

全部右足から着地するんだ、って、ひどく冷静に見ている。

そうか、あの時右足2回着いたのは、左足がきかなかったからだ、踏ん張れなかったんだ、って、腑に落ちる。

それでもそこにいてくれてうれしいと思ってるよ、って。

無理すんじゃねぇバカ!ってずっと思ってるけど、無理して無理してそのポジションを守ってきて、なにより、やりたくてしょうがないんだから、それはもう、無理してがんばれ、って。

そういう状態でも出してくれること、飛び降りることができない櫓にほかの人をのせないこと、申し訳ないし、ありがたいし、私はただの客だけど、でも、うれしいと思ってるよ、って。

ダメだったらカバーしてフォローして支えてくれる人がいっぱいいて、ひとりじゃなくて、よかったね、って。

よかったね、って。歌舞伎で、3人で、よかったね、って。

WITH LOVE、花びらを握りしめて下手袖から出てきて、真ん中でそれを、ふぅぅぅっ、と手のひらから前に吹き飛ばす時、その花びらはりょうちゃんの前だけで舞うんじゃなくて、うっすらと3人の前に広がるように見える時があるんだよね。

戻るわけにもいかないし、現時点でバラ色の未来だとは思わない、それでも、今3人でやっていこうっていうその決断を、その意志を、祝福する手のひらの上を舞う花吹雪。

全52公演、出続けてくれてありがとうございました!