真夏の地下の感情の行方(3)

六本木の地下、チーム者の予選最後の日。

対決は、覇と、者。後攻だった者は、とてもいい出来だった。

先に終わった覇が出てきて、さなじいと話している途中で、着替えの終わった萩ちゃんと、げんげんと、たじーが、もっちゃもっちゃしながら出てきた。

超ニッコニコしてて、もっちゃもちゃしてて、これはいけるぞ、勝ったぞー!みたいな空気が満載だった。ニッコニコもっちゃもちゃしながら丸まった子犬のように出てきて、でも覇とさなじいがコメントしてるのを見て、やべーやべー、っていうように、「しーっ、しーっ!」って人差し指を口元に当てて、「しーっ!」ってやりながら、でもすごくニッコニコしてて。

「しーっ!」ってやってる途中で者が全員そろって、それに気づいた安井くんが(気づいたのは安井姐である)、おー、みたいに声を掛けて、コメントは者に移動した。

そして、判定。者のデシベル無双は去年から引き続きで、基本、負けない。

しかし。

この時、Jr.票で大差がついた。

早々にボールがなくなってしまった箱に気づいて、げんげんが膝から崩れ落ちる瞬間を、うすい悲鳴のようなものに包まれる地下の空間の只中で、ただ、見ていた。

崩れ落ちるげんげんと、箱を抱えて笑顔がひきつる萩ちゃん。

そんなはずじゃ、とか。こんなはずじゃなかったんだけど、とか。そんな言葉たち。

私のいた位置からは、げんげんと萩ちゃんがかろうじて見えるくらいで、その奥でたじーとあむと神宮寺がどんな顔をしていたのかはあまり見えなかったけれど、とりあえず神宮寺はしゃべってはいなかった。

固まるチーム者、崩れ落ちた態勢から立ち上がって、泣くのを我慢して、でも涙が出てきて萩ちゃんの後ろに隠れるげんげん。

さなじいの問いかけに、萩ちゃんがハキハキしゃべってくれていたのはおぼえている。

それを見て、端っこにいた安井くんが、萩ちゃん成長したねぇ!って、なぜかドヤ顔で褒めていたのもおぼえている。

今日はガムシャラの放送があるね、夜中だねっていう話の流れで突然あむに振られて、そうっすね、翌日寝不足でパンダみたいな目になっちゃいますよね、パンダ、パンダ!みたいに、あむがすっごいがんばって無理矢理返していたのもおぼえている。

表面上は、わりと、たんたんとすすめていたようには思う。

ただ、どうしようもないことだけど、ごめんなって思うけど、これでチーム者が終わりだ、という現実に、客席はずっと打ちのめされていた。

俺らの分もがんばって、という話も出て、パフォーマンスバトルは終った。

神宮寺の『青春』、これで、最後。

これが最後になるけれど、と、スタンドマイクの前でギターを抱えて、目に涙をいっぱいにためた神宮寺の言葉を、薄い悲鳴を飲み込んだ客席が必死で聞いている。

キンプリがあるじゃん、とか、そういう問題ではないのだ。わたしたちは、チーム者が好きなのだ。神宮寺の口から出る、チーム者、という言葉が好きなのだ。

途中、歌に詰まる。完全に泣いてるのに、全身で、泣いてない!って主張してる。
泣いてるのに、泣いてない。

萩ちゃんとげんげん。げんげんは、もう、ずっと泣いてる。がんばって止めようと思っても、自然と涙がこぼれてくるような。

さなじいバンドは、ドラム萩ちゃんとギター神宮寺だけじゃなくて、げんげんとあむとたじーも一緒に。途中、神宮寺がふらーっとドラムのところに近づくと、げんげんとあむとたじーもそっちに寄ってく。奥の、ドラムのところで、5人。

つつがなく。客席はめっちゃお通夜だけど、それでも、つつがなく。

でも、アンコールは響く。もういっかい。

もういっかい。出てきたのは、ぴったり10人。チーム覇、と、チーム者。

オレらに勝ったんだから。絶対決勝行って。
明日は、(チーム者のカラーの)緑のペンライトを、(チーム覇のカラーの)黄色にして、応援してください。

そんな話を、10人だけで、した。出てくる時、安井姐と、神宮寺が2人並んで、なにごとかを相談しながら出てきて、対決の時みたいに、5-5で分かれて並んだ。

去年も今年も、デシベル最強を誇るチーム者を、ちゃんと、見送らせてくれたなぁ、と、おもった。

そして、緑のペンライトを黄色にした翌日。

昼の回で負けてしまったチーム覇に、奇跡はない。それをわかって臨んだけれど。

みやちーはいつものように、あかるくいきましょー!と叫んで。

そして、パフォーマンスの時に。

これ跳んで、決勝いこう、と、言った。奇跡はないのに、はっきり大きな声で、そう、言った。

Jr.票の入った箱は、はしもっちゃんが持った。最初のボールも、はしもっちゃんが投げた。

その、すぐあとで、はしもっちゃんは、泣き出した。

箱持ってるから、手が使えなくて、ただ、ひっくひっくと泣き出した。

ボールが、少なかったんだ。箱が、軽かったんだ。はしもっちゃんは、それに、気づいてしまった。

みやちーが、黙って、箱をはしもっちゃんの手から外して、みずきに渡す。両手を使えるようになったはしもっちゃんは、首にかけていたタオルに顔を押し付けるようにして、火がついたように泣き出した。泣き声は、タオルに吸収されきれなくて、客席まで届く。みやちーは、はしもっちゃんの顔を見ないようにして、ただ、その背中を撫でている。

箱に手を入れたみずきが、一瞬止まる。箱に手を入れたまま、止まる。その手を、外に出せない。

みずきの隣に立っていたあらんちゃんが、ガっと勢いよくその箱の中に手を入れて。逡巡するみずきの手首を握って、ぱっと外に出した。

空の、ふたつの手。

はしもっちゃんは、みやちーの肩に顔をうずめるようにして泣いている。

その間中、安井くんは笑顔で、マイクを口元から離さずに。
チーム覇、誰も怪我しませんでしたーっ、って、そう、笑ったのはどのタイミングだったか。
がっちがちにテーピングしてたのにね。心配くらい、させてくれよ。

そうして、この日は、前日よりもたんたんと、そして、短く終わった。
安井くんが尺を気にしているふうだったから、何か、あるのかなと思ったら。

最後、アンコールのはずのところで、結果発表っていって、5チーム全員出てきて、並んだ。

結果発表っていっても、客席は、今日は、覇のお通夜だから。結果、みんな知ってるから、そんな、盛り上がんなくって。
アウェイだな!って、北斗と、慎ちゃんがなごませようとする。
みゅーと髪赤くした?って、安井くんが突然振る。
えっ?ってモニター見てあわあわするみゅーとで、ちょっとだけ、客席がなごむ。

アンコールの間、安井くんは、バックのJr.にも、1人1人に、声をかけているように見えた。この夏の六本木の地下に、おつかれさま、の、挨拶。

スキすぎてのセリフのとこで、打合せなかったから?誰も何も最初やんなくてコケてるところへ樹が飛び込んできて、ジェシーが続いて、その間に立て直して、\オレらが勝者チーム者!/と、\俺らが覇者チーム覇!/って、できて。負けちゃったけど、負けちゃったから、これ、この2チームにやらせてくれたのかなーって。わかんないけど、偶然の賜物かもしれないけど。

最後の最後、引っこむ時、神宮寺がふっと、シアターEXの天井に目線を投げて。
どこに、っていうでもなく、応援ありがとう、みたいに、地声で言って、消えていった。

六本木の地下には、とても意地悪な神様がいる。

ももし、次の夏も六本木の地下に行くのなら、懲りずに意地悪な神様にお願いする。

明日、笑っていられますように。