甘い夏 広い夏

その昔、松山で、翔くんに怒られたことがある。

ひじょうに、理不尽な理由であった。

その前日は潤くんのお誕生日で、松山でのコンサートが昼夜2公演。

夏のツアー中のどっかで8月30日生まれの潤くんのお誕生日をお祝いする、というのは当時の恒例行事であり、1部でMCに入る時、客席はなんとなくHappyBirthdayを歌い出し、それにのって大プレゼント大会が始まった。

2部、MC。客席は、すぐには歌い出さなかった。

べつに、こうしましょうね、というような呼びかけがあったわけでもなく、回覧板がまわされたわけでもなく、何かが配布されたわけでもない。

当時の嵐の客席は、ツアーの最初から最後まで、わりとまとまった数の人たちが、会場をいくつか変えながら通い詰めるというノリが強く、こういうお約束事、みたいなものを飲み込むのが異常に早かったし、なんとなくタイミングを見極める、ということが意識せずにできていた。

でもそれは全然褒められたことではなくて、ただ単純に、絶対数が少なかったっていう話なわけで。

1部でもうプレゼント大会やったしな、といったところで、ハイハイMCですねって座ろうとした私たちに対し、翔くんが、おっきい声で言ったのだ。

今日、1部も入った人!

\はぁ~い/(大多数である)(とにかく絶対数が少ない)

なんでさっきはHappyBirthday歌ったのに今は歌わないんですかっ!!

お、怒られた、なんかよくわかんないけどとにかくすごいおもしろい理由で怒られた。

爆笑しながら客席はきちんと歌い、それを合図にケーキが出てきて、まさかまさかのA-Friendsが始まった。これをやりたかったから、これをやるためには尺が必要で、そのためには最初っから歌ってもらわないと困ったんだ、悪かった、悪かったよ気がつかなくて!

そんな、8月31日の記憶。

客席がいつ歌い出すかというのは当然わからないわけで、歌い出してから始めることもあったし、ステージ主導で始めることもあったし、そのあたりはタイミングだったとしか言いようがない。

こっちは、やろうね!とか思ってなかったし(いややるんだけど)、やりたくない!とも思ってなかったし、それはステージの邪魔になる!とも思ってなかったし、それを言い合う場もなかったし、基本全部ぶっつけ本番で、でもステージも客席もそれ込みでいろんなことを考えていて、いろんなことは多分うまくまわっていて。

なんというか、すべては客席に来る絶対数の少なさがなせる技でしかなくて、悪い言葉を使えばステージの上も客席もものすごく、ものすごく煮詰まっていて。

煮詰まっていて、苦くて、甘い。

煮詰まってたから苦くて甘くて大好きだった夏のツアーをやらなくなって久しいけれど、この夏、なぜかたくさん、嵐のOh Yeah!を聴く機会があった。
それは水道橋の地下のホールで、SexyZoneの菊池風磨くんが自身のソロコンに引っ張ってきて、客席にタオル振り回させる曲として使っていて。
絶対知らない人の方が客席には多いだろうに、平気な顔して、歌えー!って、自転車の後ろに君の体温のせて~から、キラキラふたりだけの朝と自由、まで歌わせるっていう、いやいや嵐もそんなことしてなかったですし!?かけるせいじゃくのみちを、のあたりを客席に歌えって無理ないっすか!?っていうやつ。

それが、六本木の地下で行われていたガムシャラ(というJr.のテレビ番組発祥の企画型ライブ)に引き継がれ、ここでも後半日程で毎日歌われていた。

煮詰まっていて、苦くて甘かった夏、それでもそれを地道に重ねて、手を伸ばしたら広い場所に手が届いたあの夏とこの曲はおどろくほどぴったりで、この夏の地下でたくさん聴いたOh Yeah!も、手を伸ばせばもしかしたら広い世界に飛び出せるような感じもして。でも煮詰まってて、苦くて、甘い。

苦くて甘い夏を越えて、広い広い世界が今はある。

自分が、自分たちがやりたいことを、やりたいように、やりたいだけできればいいなっていつもいつも思ってるよ!

おたんじょうびおめでとう嵐。

やめないでくれて、ありがとう。