ライナーノーツ WBB vol.14「Secret code〜幻のゲームオーバー〜」

亮太さんの役は悪役の魔王、っていう事前情報だけ持って神戸に行って、初日の一発目でぽよさんにお尋ねをくらうという切ない出来事があった(切ないのか)

私、ゲームってほんとにまったくやらないんだけど、唯一、次はSexyZoneでCM取れますように、っていう気持ちだけでダウンロードしていたツムツムがどうにか口から単語として出てきたものの、「あれ、オレのパクリだかんね!?」ってぽよさんにキレ芸を炸裂されるというなかなかになかなかな案件が勃発し、その日は地元の友達と飲んでキンプリとケンタッキーのCD一式をもらい、さて私は一体何をしに来たんでしょう、という荷物で宿に帰還。おぼえていることはほぼ「マント」で集約されて、それは結局最終日まで続いた。

自分がこんなに、こんっなに、コスチュームものが好きだったとは知らなかった、というか、気づいてなかった、この歳になるまで。

悪役の魔王、っていうことだけ頭に入れて、ヒルラー、っていう名前は最初気に入らなかったからそれは忘れた。忘れた、けど、実際舞台にのっかって、勇者レオンの口から「ヒルラー・ファントム!」って発せられた瞬間、170%好きだなっておもった。

あなた、本当はヒルラー・ファントムっていうのね…!お似合いだわ…!

って言うだけのモブになりたかった。いやマジで。

亮太さんのマントは縦にひるがえることを、それを見る瞬間までわたしは知らなかった。

私の中の属性のひとつに宝塚があるので、これまでいやというほどマントは見てきたはずだ。でも、バサッと音をたててマントがひるがえる時、それは、腕を回すように、横に一旦広がって、それがまた体に納まるまでの軌跡を、「マントが翻る」と表現するのではなかったか。

縦、なのだ。それは、縦なんだとしか言いようがない。縦に、空間を切り裂くようにマントがひるがえる。

ヒルラー・ファントムには翼がある。いかにも悪役のお付きの者然としたダンサーさん2人が掲げる旗のようなもの、それが翼(羽根)であって、設定上はそれで飛べる(らしい)(実際は飛べないので、ヒルラー・ファントムは徒歩で自分の城まで帰る)(てくてく歩く)。

その、両の翼に隠れた状態から、真ん中を突き破るように縦にマントがひるがえる。

何回「マントがひるがえる」って書けば気がすむねん、って話だけど、500回繰り返してもたりない。でももしかしたら、マントはひるがえっているのではないのかもしれない。

あの、縦にバサッと音をたてるマントは、ひるがえっているのではなくて、突き刺す、とか、切り裂く、とか、多分そういうものだ。

マントそのものは全然安っぽくなくて、裏地もシルバーで綺麗な刺繍のようになっているし、客席から見ていて重さも感じられるし、肩で止まるようになっていてほとんどズレもしない。優雅だし優美だし、そのまま帝劇でも着られそうな雰囲気のマントは優雅になにかを包むのではなく、縦にひるがえって空間を切り裂くのだ。

亮太さんは剣で空間を切り裂ける。オープニング、「さぁ、ゲームのはじまりだ!」のセリフを智也に言われてしまって、ちっ、っていう顔をした直後に刀を横一線に一振り。そこから、オープニングに突入していく。

剣も、マントも、その作りはどちらかというとエレガントな方向をむいていて(だからヅカっぽく感じる、メイクもがっつり悪役メイクしてるし)(好きしかない)(今その話してない)、でもそれを亮太さんが使うとえらくシャープになる。

そして、剣とマントがシャープな分、亮太さん自身の動き方には、「揺らぎ」がある。それは意図的に。まっすぐ立ってるんだけど立ってない、っていう、あれ(どれだよ)。ゆらっ、としている。戦の場面に出てくる、あれ(どれ)。

ラスト近くの見せ場で、殺陣のなかにヒルラーの側転が織り込まれている。神戸で一回だけ、全編通して一回だけ(たぶん)側転の着地でマントが頭にかぶったことがあったけど(ものすごくはてしなく自分にムっとした顔をしていた)、それ以外はパーフェクト。この、側転の着地の後の立ち姿が「揺らぎ」としか表現できないやつで、傲岸で不遜なヒルラー・ファントム像として完璧がすぎた。

傲岸で不遜な悪役はしかし、つくられたものである、というストーリーになっている。ヒルラー・ファントムは、傲岸で不遜な魔王を「演じている」。

ヒルラー・ファントムは、基本的に勇者レオンのために動いている。(それは現代の設定になった時、智也の父と親友である増井純一さんが、常に互いのことを考えていた、という設定につながる)。レオンを生かすためにどうしたらいいか、という命題に対し、ヒルラー・ファントムがたどりついた答えは、「このゲームをいつも通り終わらせる」。

いつも通り、とは、バグのせいで、ゲームはエンディングを迎える直前で強制終了してしまうこと。いつも通り強制終了させるために、ヒルラー・ファントムは勇者のパーティー(勇者・戦士・盗賊)との最後の決戦を迎える。

「久しぶりだな、勇者たちよ」

「さっき会ったじゃないか」

「…会ってない」

「…さっき」

「会ってない!!!」

「…流れは守りたいみたいだな」

勇者のパーティーを迎え撃つ魔王、ここの「久しぶりだな、勇者たちよ」は、剣とマントの作りに合わせたような、エレガントな物言いになっている。劇中劇。ヒルラーは魔王ヒルラー・ファントムをいつも通りに演じている。いつも通りに演じる、いつも通りのセリフ。

「少しは腕をあげたか」

「勇者レオンよ、わたしの配下にならぬか?一緒に世界を征服しようではないか」

劇中劇だから、芝居がかったエレガントな言い回し。

「そうか、ならば後悔させてやろう」

から一転する、シャープな世界。

劇中劇の中をそうだと知って生きているのは、ヒルラー・ファントムなのか、その中の人なのか。

カーテンコールで、「亮太さぁぁぁんっ!」って呼ばれてニコニコしてガチャガチャしてる中の人をほわほわと見つめながら、このひと、どういう人なんだろう、わたしまったく知らないなぁ、みたいなことを考える。ひとつ、知っていることがあるとすれば、マントを縦に操れること。そのマントは、空間を切り裂けること。

「亮太さぁぁぁんっ!」って言ってくれる、盗賊ルカさんとモブキャラぽよさんと、戦士アーサーさんは年下。勇者レオンさんは同い年、探偵J-1さんはなんと年上。

亮太さん、アラサーだけど、いうてもまだ20代で、こういう中に入ると確かに先輩ではあるけれど、見方を変えればまだ全然若手のくくりにも入れるんだなぁ、みたいなことを考える。

瑞樹だってなぁ、まさかこうなるとは思ってなかった。大昔、まだ東京厚生年金会館とかでKinKiがコンサートやってた頃、剛のコント遊びに徹底的に付き合ってくれたのが瑞樹で、それ見て光一が「俺はみごやねんもん…」って拗ねだして、剛が「こーちゃん!」ってなぐさめてた、あのころには全然、予想もしなかった今がある。

マント、の記憶だけで始まったSecret codeは、マントの記憶だけで終わった。こんなの、次いつ見られるかわからない、って、ほんとに、まるで屍のようだ、っていう勢いで通ったけれど、いやいや案外見られるかもしれないなぁ、みたいな、妙にのんびりした何かが私の中に残っている。

今まで、私、誰が相手でも、事務所辞めたらそこまで、だったけど。もし、辞めることがあって、辞めてもこの人がどっか他のところで踊るなら(まぁそれはちょっと考えにくいけど)(わりと忠誠誓ってる感じするよね)(亮太さんジャニーズ好きなんだろうな、みたいな確信はある)それは見に行きたいぞ?

…って、思ったのは初めてだった。

アイドルは有限だ。限りなく無限にする努力はできたとしても。時間がない、と言われればそのとおりで、しかし、デビューしてほしいとは正直思っていなくて、ではその先にあるものはなんだろう。

実は案外年上だったJ-1さん。神戸の、初回。ラストの、J-1さんの、ここ!っていう見せ場で、噛んだ。その瞬間、もう本当に、ほんっとうに、この人のことまったく知らない私にもわかるくらいはっきりと、くやしい、っていう顔をした。

J-1さんは、ジャニーズのアイドルじゃないし、ジャニーズJr.じゃないけど。

でも、そういう顔できるうちは、大丈夫なんじゃないのかな。時間って、あるんじゃないのかな。くやしいとか、うれしいとか、ステージの上で、そう心から思えることがあるうちは。きっと、時間はある。

あっちの劇中劇とこっちの劇中劇を行ったり来たりしながら、劇中劇の只中を、きっと今日も君はそうやって生きている。

その先に待っているのは、魔王ヒルラー・ファントムも知らなかった、見たこともないエンディングなんだよ。きっと。