闇夜をつくる

フリフラ、っていう商品名を聞いたのは相当前の話。

制御型のペンライト。

最初は、全然気持ち的に惹かれなかった。制御される、っていうの、あんま、ねぇ。その程度。それこそ、オリンピックの開会式メインスタジアムの客席とか、そういうとこで使うのがいいんじゃないの、程度。

それが。

嵐コン THE DIGITALIAN でウチワの形をして、ファンライトという名称で実用化されるまで、案外早かった。

フリフラは無線制御の機能が入るわけだから、当然値段が上がる。多分そのために、ウチワとペンライトを一体化させることにしたのだろう、と言われていた。

最初は、めんどくさいの極みだった。ファンライトという名のウチワ型のフリフラを購入した後、別のエリアまで行って、座席ごとに異なっている所定の機器にウチワを触れさせて機能を読み込ませる。当然、最初は大行列。

これは大丈夫なのか!?と、思わないこともなかった。

それが。

コンサート開始3秒で手のひら返したよね(私がね)。

とにかく、ドームの客席の光がうねるような、光が意志を持っているような瞬き方をする。光が「またたく」とは、こういうことか、と、初めて目にしたような気がした。美しい、以外の言葉がなかった。

でも、実はフリフラの最大のポイントは、

空間を瞬時に闇夜にできること

だった。

光を消すことができる。そこは、闇夜になる。

闇夜にすっと、浮かび上がることが可能になる。

DIGITALIAN以降、ファンライトは改良され、普通のペンライト型になり、値段も抑えられ、客席に貼られたシールに触れさせるだけで機能読み込みが可能になった。

2016年ツアー Are You Happy? のニノソロは、闇夜がないと成り立たない。

闇夜に浮かぶ真っ白い衣装、たった一人のニノと、闇夜に溶け込むような色合いのJr.と、始まりのとても静かな音。

黒い闇、ステージの奥から、7人が薄い光に向かって飛び出してくる瞬間のコントラスト。

上空のシャンデリアみたいな光の洪水から離れた、薄く光るステージ。

焦燥を叩きつけるように踊る情熱が、薄く闇夜に浮かび上がる全景の美しさ。

静寂の闇から出てきて、また、闇に帰っていく。

静寂と、闇。薄い光に浮かぶ情熱。

このツアー後の春、この時のJr.が自分たちの単独公演で、自分たちが踊った二宮くんのソロをやろうと思っていた、という話をMCでしていた。

6人で踊るのに、6人バージョンで作り直していた、んだけど。

やっぱりね、二宮くんが真ん中にいないと、って話になってね。

そう言って、笑っていた。

横にも縦にも広く大きなステージ、そこに浮かぶ薄い光、静寂と、闇夜。

一瞬で闇夜をつくりだす、フリフラ。

わたし、フリフラ、好きよ?

それを引っ張ってきた、潤くんの情熱も好きよ。

おたんじょうび、おめでとう。

青山劇場の冬

坂を上り切ったら、青山劇場は冬だった。2015年1月。

多分2012年以来に、青山劇場でTravis Japan9人が揃うことになっていた。

ステージの上で。

結果として、揃って踊ることは、できなかったけれど。

1階、V列の19番。機材で半分ふさがっている1階席のいちばん後ろ、一般には売り出されていない席。振付の方とか、事務所関係者的な人がいつもは座っているような、その、V19が、初日直前に骨折して踊ることができなくなった、あらんちゃんの指定席になった。

阿部顕嵐、くん。

その時まだ、高校生。

青山劇場も、日生劇場も、思い出に残っている姿はたくさんあるうちの、超個人的な話を書きたい。

わたしが、通路から2席目に座っていた時の、話。

舞台をするすると降りてきて通路を歩きながら、あらんちゃんはにこにこしつつ通路脇の人に両手でハイタッチして、内側の席の人に手を伸ばして求められればそこにも触れて。

あらんちゃん、若いのに上手だなぁ、客席が怖いっていう印象は持ってないんだなぁ、人あたりの印象がほんとにやわらかいんだなぁ。

そんなことを思いながら、ぼんやり見ていた。

わたしは自分自身に対してとてもとても卑屈なので、そういう時、ただ、ぼんやり見ていることが多い。わたしより、ほかに手を出す人がいるのだから、そちらの相手をしてあげた方がいいのではないか。卑屈さからくるそんな思考がベースにあって、だから、ただ、ぼんやりと見ている。多分、感情のない顔をして。

その時も、感情のない顔をしていたと思う。

わたしの隣の、通路側のひとが両手をあらんちゃんに向けて差し出すと、あらんちゃんはそれに対して、本当にやわらかく、ふわん、と触れるように同じく両手で手を合わせた。

にこにこしていて、やわらかい。

全体の印象はどちらかといえばシャープなのに、印象がやわらかいなぁ。

そんなことをぼんやりと考えた。目線だけは、そっちに向けていたと思う。

その、目線に、ふっと、あらんちゃんの両手と、にこにこしたままの顔が飛び込んできた。

手を出していないわたしに対して、あらんちゃんは、

はい次貴女ですよ!お待たせしました!

…みたいな。

そんな空気を纏いながら、両手を出してきて、くれた。

多分、感情のないまま、条件反射のように両手を出したわたしの手に、ずっとやってきたように、おんなじように、ふわん、と手を重ねて、にこにこしたまま、ふわん、と、離れて行った。

もうひとつ。

2015年の冬、V列19番の席に座っていたあらんちゃんの隣に、梨本くん(元Jr.、現在、嵐コンの振付等を担当している人)が座ったことがあった。

開演前に、松葉杖でやってきてその席に座ったあらんちゃんに、梨本くんが所属を聞いていて、それに対して「トラヴィスジャパンです」と発音していた。

ヴィ、って発音するんだな…って思ったことを妙におぼえている。

その日、客席降りで、1階いちばん後ろのあらんちゃんの席まで、せっせと階段を上がってきた江田ちゃんが、あらんちゃんとハイタッチしようとして梨本くんに気づき、おっ?いたの? みたいな顔したことも、妙におぼえている。

その冬、いつも、誰かしらがそこまで階段を上って来ていた。V列19番。

あらんちゃんとハイタッチしたり、頭ぐしゃぐしゃってしたり。

いつも、誰かしらがそこまでやって来ていた、V列19番。

揃うはずだった、と思っていた。

けれど、そこにはちゃんと9人揃っていた。

冬の、青山劇場。

プレゾン、楽しいばっかりじゃなかったと思う。どんな仕事だってそりゃそうだよって言われたらそれまでだけど。年功序列、体育会の権化みたいな先輩がかぶさるようにわさっといたし。

立ち位置が前か後ろかとかは、わたしは気にならなかった、し、平等かどうかとかも、考えたことはなかった。でも、どの曲に出るか、どの曲に出してもらえないかっていうのは、それは、引っかかったことがたくさんあるし。

わたしはりょうちゃんばっかり見てたけど、すっごい出してほしかった曲に出てなくて、ほんっとに悲しかった時もあるし。

めんどくさいことも理不尽なこともうっとおしいこともダークなことも、それはそれはきっと山ほどあって。

それでも、みんなで、フラットになって、踊るから。

出てるひと、全員で、みんなで、全身全霊で、息も絶え絶えになって、踊るから。

それで全部チャラ、みたいなところもあって。

だから、プレゾン好きで。

とても、好きで。

それを、好きだったことに、疑いはない。

幼かったあの夏も、松葉杖のままだったあの冬も。

マイナスもプラスも全部抱え込んでくれるプレゾン。

青山劇場は、あの坂の上にある。