出汁はいい!

幸大くんの連載の話したい。


同じグループになれてうれしかった。

俺が思ってるだけかな。


そのあたりでちょっと泣けて、でも全体的に素直すぎねぇかと思って最後にちょっと笑ってしまった。

何も幸大のことわかってねーな自分は、と思った。

誰のこともわかっちゃいないけど。


スクアッドは、回を重ねるごとに、幸大さんが階段を駆け上がる音がずっと聞こえてた。

あんまり声量があるわけじゃないとか、台詞が長いと流れやすいとか、そういうのもあるんだけど、どんどん本人が余怒峰になっていくからそんなの全然気にならなくなる。

スクアッドは、端的に言えば仲間になっていく話、だから、ステージの上で幸大がどんどん仲間をつくっていく過程を見ているようだった。

仲間をつくって、そして幸大自身が仲間になっていく過程で、周囲とどんどん呼吸があっていく、階段を駆け上がるように幸大が自由に呼吸ができるようになっていく姿を見ていた。


リアルに1年間ひとりだった、と幸大は言う。

俺はずっと一匹狼でやってきました、と余怒峰は言う。


余怒峰を見て。

連載を読んで。

幸大が、グループ、っていうもののこと、そんなに大事にしてくれてたって、自分全然気がついてなかったなって思った。


グループのために抜けた、って言われちゃったら、グループは足枷だったのかってやっぱり思っちゃうから。

そんなことないんだよと言う代わりに、グループはおまえの足枷にはならないと、そう最後まで伝えたんだときっぱり書いてくれた。

何をどうしても本人の希望だった、それ以上でもそれ以下でもない。


納得なんか、するわけねーじゃん。

方向性の違いなんか知るかよ。

それでも。

だめだったんだよね。

グループのためでなくていいんだよ、グループのためだって言われたら、こっちは身動きできないから。

グループのために考えて抜けてくれてありがとう、なんて、しんでも言えないし、それはちがうじゃん。


グループのために、いてほしい。そう、最後まで伝えたんだと言い切って、でも、彼の人生は彼の人生のものだと書いた。


これはすごく冷たくて、でも、幸大は今、幸大が大事だと思うものを守ってくれたんだと思った、の。


徹頭徹尾、わからない、と書いてある。実は。

徹頭徹尾わからないんだと素直に書いて、素直がゆえに、グループのためを考えて、とか、「演技仕事がしたい」っていう理由は、理由になんかなってないって言っちゃってる。

いくらでも個人仕事すればいい、そうきちんと言ったんだ、そうすることがグループの足枷にはならない、最後までそう説得して、でもだめだったんだ。


素直がすぎる。


べつに、林くんを悪者にしようとか、そういう話じゃなくて。

そういう林くんとたくさん一緒に踊ってきて、別に犠牲的でも品行方正すぎもしないそのままの林くんと一緒にやってきて、だから、今までもこの先も、仲が悪くなるってわけじゃない。

今回の件も、林くんの、そのまま、を、受け取った。

そのままを受け取って、自身が感じた悔しさを、そのまま文字にした。


素直がすぎる。


出汁はいい!って言われても、お姫様抱っこして食卓につかせる、そんな魔法が使えたらよかったのに、ね。


いつか、幸大くんが、魔法を使えるようになりますように。

ねてもさめても

桃山ビート・トライブ、千穐楽の最後のカーテンコール。

ふたりだけでトコトコ出てきて、真ん中で並んで、顔をちょっと見合わせて、「いやーーー」って。終わっちゃったねぇ、みたいな声音の、いやいやいや、ってニュアンスの、「いやーーー」って声を揃って出した時、

あっ、戻った

って、思った。

戻った。このひとたちには戻るところがあって、宇宙に、帰るのだ。

藤次郎と小平太だったのに。

帰ってしまうのだ。

戻る場所があること、帰るところがあることを、何よりありがたいことだと思って、何より本人がその場所のことをしぬほど大事に、それは何よりも大事にしてきた場所なのに。

こんなにさみしいのは、どうしてだろうと。

自分の感情を思い返している。大昔、本当に大昔、宝塚で、天海のサヨナラ公演だったミー&マイガールを見た時みたいだった。

天海のビルを、これを見るために私は天海を好きになったんじゃないかなって思ってた、当時。そこにいるのは天海で間違いないけれど、そこにいたのはビルだった。気質が本人と似てるとか役に合ってるとか芝居がどうとか、技術がどうとか、役になりきるとか憑依型がどうとか、全然そういうことじゃなくて、ただ、そこにいるのはビルだった。

EXには、ただ、藤次郎がいた。

EXで生きていた藤次郎は、原作よりずっと優しくて、ずっと誰かが好きだった。

二幕、ちほと女の童たちが踊る姿に三味線を弾いている、そこにやってきた人に「秀次様」と呼びかける。

日を追うごとに、その声がどんどんうれしそうになっていく。最初は、驚きの方が強い「ひでつぐさま?」だったのに、終わる頃には「ひでつぐさま!」になっている。

ずっと誰かを好きになる。

藤次郎はずっとずっとステージにいるみんなのことが好きだった。小平太のことも弥介のことも、ちほも、又一郎さんも、秀次様も、三次も、助左衛門さんも、平信も成太も飯屋の主人のことも、三味線盗んだその持ち主のことさえも多分。

敵対してるお国に警戒心バリバリだけど、でもたぶん嫌いじゃない。三九郎と三成のことは許さないだろうけど、でも嫌いではないような気がした。

ずっと誰かを好きでいる。自分の目に映る世界の全部を愛してる。

だから藤次郎は優しくて、日を重ねるごとにもっとどんどん優しくなる。

その世界にいるみんなのことを、ほんとに大事にしたいんだと、それは痛いほどに。

ぜんぜん、踊ってなんかいないのにね。

一番得意なことを、一切やっていないのに。

楽器なんか全然興味ないのに、三味線ずっと持っててさ。

ジャニーズに入ってこんなに苦戦したの初めてだ

って。嘆いてたみたいなのに。

ほんとに。わたし、ほんとに、藤次郎に担降りしたくてしょうがなくて。

ビジュアルイメージが出た時の、これだ!っていう感激のなかにいつまでも浸ってたくて。

それが、理想のとおりに動いてて。

EXに、そこに藤次郎がいて。

千穐楽が終わるとき。

本当に。

藤次郎はもう消えてしまうんだと。

「いやーーー」って声が揃った時に。

あっ、戻った

って。

あの瞬間、たしかに藤次郎は消えて。

「みんなが泣かないでよ」

って、客席の わたしたち は、おこられて。

「こんなふたりですが、これからも、よろしくおねがいします」

って亮太さんが言って、めぐさんとふたりで、ぺこっとお辞儀をした。

帰るんだ。

そう思ったとき、めぐさんが亮太さんの手を引いて、ぱふっ、と、抱きしめた。突然。

亮太さんの耳元で、めぐさんが何事かを伝えてから、ふっと体が離れた時に。

ぶわわっ、と、一度引っ込んだ涙をまた、ぶわわっ、とあふれさせながら。

一瞬、途方にくれたような顔をした。

その一瞬の顔がね。

もう、戻ってたのに。宇宙に帰っていたのに、また、ほんの一瞬だけ。

引き戻されたような気がしたの。

もう帰っちゃうの、って。

なんだか、そんな顔に見えたの。

「ばいばーい!」

って、言われた。

「ばいばーい!」って、手を振られて。

「ほんとにありがとうございました」ってめぐさんが言って。

「ほんとにありがとうございました」って亮太さんが言って。

帰っちゃった。

へんなの。

帰っていくその場所を、しぬほど愛してるのにね。

ばいばい!

いつかまた、担降りさせてくれよな!