不思議体験

 もう時期的にいいかなーと思うので書いてしまう話。
 (といってもたいしたことはない話)。

 仕事で、大野智に会いました。

 …と言うと語弊がありすぎ。正しくは、「大野くんが写真撮影とインタビューを受けているところにクライアント側として立ち会いました」が正解。
 私は特に業界の仕事をしているとか全然そうではないのですが、なにしろ嵐の仕事の幅が広がりすぎている昨今、そんなことが突如として降ってきたのでゴザイマス。
 「僕行けないから、ぶんさん立ち会って来てよ。嵐好きなんだよね?取材も写真も別の会社がやるから、ほんとに立ってるだけで、握手も写真もダメらしいけど」と会社の人に言われて。握手も写真もダメなのはよく知ってます、と我ながらテンパった返答をして、半信半疑のまま、都内のスタジオに一人で行きました。

 握手も写真もダメなんですー、と撮影部隊と取材部隊の人に繰り返し言われて、それはもうわかったってー、と思っているうちに、あっさり智くん登場。
 智一人に4人ついててびっくり。そりゃそうかーとも思いつつ、でもなー、京都でぽてぽて一人で駅前歩いてたのになーとも思いつつ。相変わらず思ったより小さく(笑)思ったより細く。

 全部で10人以上いたのかな、スタジオの中は。最初写真撮影してて。その情景はあまり見えないところに立ってたら、取材側の会社の人に、もうちょっと真ん中行くと見えますからどうぞ、とも言われたけど、ずっと遠くにいました。
 なんだろう。撮影しているところを見なくても、今どんな顔しているのか、なんとなくわかるような気がして。その10人くらいの、一番外側で、なんとなく立っていました。

 撮影が終わって、着替えと小休憩。
 案の定というか、智くんは、相変わらず、眠そうな顔をしていました。
 途中で取材側の人が、疲れているんですか?と、智くんについてきたスタッフの人に聞いていました。私は内心「眠そうなのは、いつもです」と思い、スタッフさんは「いや、今日は絶好調ですよ」というようなことを返答していました。

 終わってインタビュー。これは、声が聞こえるくらいのところに立っていました。
 インタビューは非常にばくっとした内容で、小さい頃はどんな子だったか、とか、事務所入りのきっかけ、デビューのきっかけ、というようなものでした。
 耳で追って聞きながら、内心で返答しているうちに、私は、そのインタビューに、全部答えられることに気がつきました。そのうち、完全にシンクロした回答がふたつ。

 夢、を聞かれて「夢なんかないっすよ」と言った時。
 リーダーとして嵐をまとめていますね、と言われて「まとめてないっすよ」と言った時。

 笑っちゃうくらい、私の内心の回答と、現実の大野くんの回答と、タイミングも言い方もまったくおんなじ。でもこれは、10年嵐を見ていたかなりの人が、100%ばっちり回答できる質問だなあと思ったりしました。

 最後に、「何か追加質問ありますか」と、急に取材側の人が私に聞いてきました。その時、大野くんの視界に初めて私が「クライアント側の人」と認識されたようで、ちょこん、と、会釈をするように首が動きました。
 聞きたいこと、言いたいこと、死ぬほどたくさんあるようで、でも、「特にありません」と首を振りました。インタビューに内心で答えているうちに、妙な自信がわきおこってきたのです。
 
 私は、この人と一緒に仕事をしたことはないし、知り合いでもないし、友達でもないし、この人は私のことをまったく知らないけれど、でも、私はあなたのことを、多分あなたよりもよく知っている。

 もしかしたら、そういうカテゴリーに属する人のことを、ファン、と呼ぶのかもしれないなあ、と。
 そうだとすれば、ファン、という稼業は、案外いいものなのかもしれないぞ、と。

 インタビューが終わって、着替えて、キャップをかぶった大野くんがスタジオから出て行く時。普通に眠そうだった顔はちょっとすっきりして、ちょっとうれしそうな足取りでした。
 その時の顔の感じとか、歩き方の感じが、「私が普段コンサートでよく見る大野智」に一番近い雰囲気でした。写真撮影と取材中の、TVでよく見る「普通に眠そう」なスタンダード大野智ではなく、コンサートでよく見る、ちょっとふわふわしてる大野智な感じ。
 日常の仕事が終わった時の大野智の雰囲気と、コンサートで見る大野智の雰囲気が同じだ、というのは、私にとっては、たとえようもないほどに幸福なことではないだろうかと思ったりしました。

 帰り際、おつかれさまでしたー、と、大野くんは周囲に頭を下げていました。私は、取材側の人の人垣から少し下がったところでそれを眺めていました。
 そうしたら、大野くんは、その人垣の向こうにいる、クライアント側の人間(私)に、背伸びをするように目線を合わせて、「おつかれさまでした!」と、言いました。
 私は、だまって、頭を下げました。

 なんだか、不思議な経験でした。