クリエから、お車を

 東宝(?)のご関係者(?)の方の「クリエから大きく羽ばたくジャニーズ銀座全ての出演者に祝福を!」というツイートを見て、ぱっと頭に浮かんだのが「オットー・クリンゲライン閣下にお車を!」という、ミュージカル『グランドホテル』(宝塚版)の一節。

 余命幾許もないオットーというさえない中年男性が人生を賭してやってきて、密度ある時間を過ごした最高級ホテル「グランドホテル」を出ていくラストシーン、にかぶさる、「オットー・クリンゲライン閣下にお車を!」「クリンゲライン閣下にお車を!」というその表現が、あれはオットーへの「祝福を!」という意味であり、だから「お車を!」「お車を!」って、たくさんリフレインするのではないか……

 ……ということを、突如として考えた。

 考えたというか、思い出した。

 祝福を! とは、出ていく人たちに対して贈る言葉であろう。ここを出ていく、グランドホテルを出て行く決意に対して、その幸せな未来を願って「お車を」呼ぶのである。

 対して、シアタークリエという日比谷の宝塚劇場・日生劇場・帝国劇場が立ち並ぶ場所の地下にある(そう、あの劇場は地下にあって窓がない)、さして大型でない劇場から、ジャニーズJr.としてまとめられる(まとめられそうな気配を感じている)あまり強い権限を持たない男の子たちに対して贈られる祝福、贈りたい祝福とは何かを考える。

 来年またこの劇場で同じような催しが開催されると仮定して、もうそのメンバーが絶対に違うことをみんな知っている。演者も、演目を成り立たせる人も、見ている我々も、それはもう絶対に違うことを知っている。「あれが最後だったのか」「あれがサヨウナラだったのか」と、振り返るばっかりだし、「もうあれは見られない」ことばかりを我々は積み重ねている。たとえばそこに立つ人が同じだったとしても、同じ何かは二度とない。およそ舞台とは、ステージとはそういうものだとしても、ことジャニーズJr.となれば、その意味合いはことさらに重くなる。

 たぶん、だからこそ、閉じる幕の向こうへ祝福を。
 未来へつながる、「お車を」
 願わくば、ステージ上の同じ貴方に、ステージ上の同じ隣の人で、ステージ上の同じ人たちで、少し背が伸びたね、とか、縮んだね、とか、言い合って笑いたい。

 また会いましょう。
 またここに戻ってきたいです。
 次やる時はこのメンバーじゃないかもしれないけど。
 またこのメンバーでやりたいです。
 ここがゴールじゃなくて、スタートです。

 地下の小さな劇場の、幕の向こうに祝福を。
 地下の幕をくぐって出ていく、出発の瞬間の君たちに、最大級にかっこいい「お車を」