少年時代

少年は青年になるか否か。

否。

少年は一足飛びにオジサンになる。

否が応もなく。

ヒリヒリした少年時代を太陽の下で、後にマイナーコードの中で過ごしたぼくたちは、メジャーコードの直中にいる今、まだぎりぎり少年か、もうすでにオジサンか。

国立競技場は広いのだ。

オジサンに足を踏み入れかけているぼくたちの体は重いのだ。

久しぶりではすぐに体が馴染まないのだ。

しかし。

どんなに練習してもどんなに繰り返しても、本番の1回にはかなわない。

ぼくたちはそんな少年時代を過ごしてきた。

重かった体に、スイッチは突然入る。

空が藍から深みへ変わる時間帯、静かに流れ出した美しいイントロ。

この曲の何がいいんだろう、と11月生まれの少年がつぶやいた時、やめなさいよ!と6月生まれの少年は2回口にした。

Love Situation.

思い出したのは鹿児島の景色。

小さな小さな会場、静かなイントロの途中、両手を開いた8月生まれの少年の、顔が真上を見ていたこと。

今、同じように見上げた視線の上、突き抜ける満天の空。

きっとまだ少年の目に映る、藍が深みに変わる空の色。

スイッチはここで突然入った。

1回の本番で何もかもを身につけてきたぼくたちは。

一度入ったスイッチは途切れない。

途切れないまま動いていると、どうやら息が切れる。

全力で踊ってしまった後で、ぼくたちは方々に散らばった。

倒れ込んだり、しゃがんだり。

えっと、みんな水飲んだりしてるんで僕一人でやりますけど、ぼくたちが嵐です。

と、1月生まれの少年がぜーぜーしながら言った。

翌日。

1回の本番で何もかも身につけるぼくたちは、そんなにぜーぜーしなかった。

体も最初から重くなかった。

オジサンにはまだ早いんだぜ?

その日、ぼくたちは、12月生まれの少年が乗ったリフターが結局上がらなかった話を笑いながらした。

なんでセンターに歩いてきちゃうの。

もうちょっとあの場所で粘ってくださいよ。

だってだって、俺、上がってると思ってたんだもん!

でもあのあたりの人は近くで見れてよかったかもね。

そんなフォローを聞いて、あのあたり、のペンライトがきらきら揺れた。

おー、ありがとー、と12月生まれの少年が手を振ったら、チームみたいだ、あのへん相葉チームだ、とみんなが笑った。

マイナーコードの中の、ヒリヒリするような少年時代。

リフター上がらないなんてことがあったら、その場の全員が凍りついたよね。

思うようにはうまくいかなくて、8月生まれの少年が涙を溜めていたこともあったのだ。

ダメ出しされたり、大きな会場ではできなかったり、色々色々あって、それでも、この形に嘘はないと信じてここまできたのだ。

たぶん、互いに手を取り合って。

そして、5年目の国立競技場。

11月生まれの少年は、8月生まれの少年に、あんまり花火見ちゃだめって言われたんだって。

うちのコンサート番長はキビシイのだ。

夜10時から振付固めようとするし、「ちょっといいかなぁ」から始まるアイデアは全然「ちょっと」じゃないし。

それは、じゅうねん以上前からずっとそう。

マイナーコードからメジャーコードに変化しても、それは変わらない。

だめ、って言われても、11月生まれの少年はやっぱり花火を見た。

8月生まれの少年はきっと来年も言うだろう。

あんまり花火見ちゃだめ、って。

そしてやっぱり、11月生まれの少年はきっと花火を見るだろう。

それを繰り返しているうちは、きっとまだぼくたちは少年なのだ。

ほかのなにが変わっても。

じゅうねん以上前からずっと続く、ぼくたちの少年時代。

幸せにしてやるよ!と叫ぶ8月生まれの少年は、ぼくたち自身をも幸せにする。

怒りも迷いも諦めも焦燥も、笑いも決意も貪欲も上昇志向も、気持ちと体とみんなの全部を幸福で包み込む。

少年は青年になるのか。

否。

少年はオジサンになる。

しかし。

幸福のベールでぼくたちときみたちを包み込む。

包まれたその瞬間を、少年時代と呼ぶ。

たぶん。