ちょっと待って!
って、言った。山本亮太くん。Yのひと。
とてもよく通りすぎる地声。
いつもの、相変わらずの、おおきい声で、
ちょっと待って!
って、言った。
盛り上がってますかーっ!
改めましてThey武道でーす!
そんなふうに、MCを始めようとしていた。Hのひと。林翔太くん。
ジャニーズ銀座という名の、春のシアタークリエ公演。
一年に一回、3日間だけ、They武道(という名のジャニーズJr.のユニット)がThey武道として公演を打てる場所。
その、たった3日間だけの初日。
ちょっと待って!
おおきな声に、どうした、って、体を向けた。
Eのひと。江田剛くん。
ちょっと待って!
どうした
なに?
ちょっと待って!
(待った)
いったん、……ハグして。
ちょっと待って、いったんハグして?
なに言ってんだと突っ込む前に、おいおいと言う隙もなく、真ん中にいたYのひとに、HのひととEのひとがすーっと近づいた。
するっと肩にまわされた腕と、腰のあたりに添えられた手のなかで、Yのひとが、やっと、呼吸をしたようにみえた。
どうしたどうした
なんだよ
緊張した?
したねぇ!
昨日何時に寝た?
出たーっ!
Yのひとはデリカシーなんて言葉知らないように見せるくせに、クリエ初日の前日は眠れないと言う。
初日は毎年、頭から足のつま先まで、緊張でコーティングされているみたいだ。
息が吸えてないんじゃないかと思った、今年。
あまりにも、顔が真っ赤で。
落ち着けよ!って思うのはいつものこと。
でも今年はそれにしたって飛ばしすぎ。
いつ、呼吸する気なんだ、って。
そしたら。
ちょっと待って
いったんハグして
まわされた腕と手のひらのなかで、やっと、呼吸をしたようにみえたんだ。
甘いと言われてもいい。
わたし、やっぱり、きみたちにはThey武道でいてほしい。
年に一回だけの3日間だけしかなくてもいいくらい、探していた答えは全部クリエのなかにある。
春の「クリエ」には魔法がかかっているから、そう思うのも全部、幻覚かもしれない。
それでもいい。
けど。
ちょっと待って
いったんハグして
冗談なんかで言ってない。
サービスでもなんでもない。
体に血が回りすぎている、そのくらい飛ばして飛ばして、緊張にコーティングされたなかでめいっぱい踊ったら、呼吸なんかしてる暇ない。
ちょっと待って
いったんハグして
わかるでしょ、呼吸させてよ
ハイハイ、どうぞどうぞ
はいはい、緊張したねぇ
MCの中盤、お知らせがあるんだよねっ、と、嬉しそうに言い出した。
そうそう、しょーちゃんのドラマだねぇ。
客席はそう思って、実際ドラマの宣伝があった。
嬉しいねぇ、MCでドラマの宣伝があるなんて!
そんな空気のなかで、ステージ上の3人は、もったいぶったように、もっちゃもっちゃしだした。
もうひとつお知らせがあるんだよねっ
ねーっ
どうする
どうする誰が言う
えーっと
あ、言ってよ
いい?
うん
うん
ダンススクエアの表紙になります
しょーちゃんが言ったと記憶してるけど、客席の悲鳴がかぶさった。
いつまでもいつまでも拍手した。
27日!
27日発売なんだけど、特別に、明日明後日、クリエのロビーで販売が。
歓声というか、悲鳴。
ダンススクエア。
3号目で表紙にも巻頭にもなれなかった時、もう無理だと思ってた。
表紙の可能性なんてもう思い出さなくなった今、しかも、わざわざ情報解禁をクリエの、年に一回3日間だけのクリエに合わせて本人たちの口から言わせてくれた。
挙げ句、ロビーで売ってくれるって言う。
この3人のために、それだけの企画を通して関係各所と調整して、発売日前のロビー販売にまでこぎつけてくれたひとが、この3人のまわりにいる。確実にいる。
吹けば飛ぶよな、多分未来って名前からはかなり遠くにいるアラサー舞台班Jr.のために、動いてくれたひとがいる。
みなさんのおかげです。
ステージの上から、そんなふうに言われたけど。
そんなことないよ。
動いてくれるひとが周囲にいてくれたことと。
きみたち自身の粘り勝ちなんだと思ったんだよ。
甘いって言われてもいい。
わたし、やっぱりこれがいい。
わたし、やっぱり、この形がいい。
エモさ感慨深さを極力避けて、10人でできる楽しさ格好良さに大きく針を振った今年。
遠いはずの未来が、なぜかすごく近かった。
はじめて、クリエじゃないステージの上に、これがそのままのっている夢を見た。
夢は夢かもしれないし、夢は夢じゃないかもしれない。
でも、そんなことも、もうどうだっていいのかもしれない。
ちょっと待って
ここでハグして
そう言い出しても笑わずに。
初日のMCなのに、
どうでした!?
と言い出したYのひと。
ここまでってことね!
ここまで。
そう、ここまでどうだった!?
客席がうわっと拍手したら、突然顔をぐしゃっとさせて
わかるもん…
てつぶやきながら、突然涙ぐんだYのひと。
まだ公演終わってないけど、どうだった!?
よかったよ!いけてるよ!
そうでしょ、わかるでしょ、わかるよね、わかるもんね?
涙ぐんだYのひとを茶化しもせず、さらりと話題を変えたHのひと。
その間に、たまった涙を両手でさっと払ったYのひと。
わたし、やっぱり、ここがいい。
千穐楽の、2度目のアンコール。
もういっかいいい?
と叫んだ、Yのひと。
みんなはThey武道のもの
They武道は\みんなのもの!/
みんなのもの。
みんなのもので、3人のもの。
ちょっと待って
いったんハグして
呼吸ができる、この場所がいい。
ちょっと待って
いったんハグして
できれば、もうちょっとだけ、未来まで。